- 悪夢ふたたび
- 2011.10.17 Monday
- category: ネコ
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嫌な予感はずっとしていた。ここ数日、どうも調子が良くなかった。食欲もないし、走り回る元気もない。疲れか。いや、季節の変わり目はどうも調子が悪い。シュンギクがまた倒れた。日曜日。家を出る前。最初に倒れたあの日のように、シュンギクはよく甘えた。ボクがソファに横になっていると、体の上に乗り、ゴロゴロとノドをならす。ただ、最近はこうして甘える日が続いていた。甘えん猫(あまえんびょう)。そんなあだ名が付けられそうな勢いだった。ある作家の原稿を受け取るため、休日出勤となったボクは、もろもろの作業を終え、21時ごろ家に戻った。ボクの帰りを喜び、足に絡み付くシュンギクに、大好物の缶詰をあげるが、なぜかほとんど興味を示さない。自宅を出る前にあげていったスープも、半分以上残していた。ボクはテレビを付けた。ドラゴンズは今日も負け。優勝は明日以降へと持ち越しになっていた。こんな日にスポーツニュースは見る気がしない。ブラウン管の向こう側では、まだ髪の毛が残っているブルース・ウィルスが銃を激しく乱射していた。4週連続で放映される、ダイハード祭りの第2夜だった。ボクは何度も見ているその映画を、見るとはなしに眺めていた。ボト。そんな鈍い音がしたのは、ブルースが空港警察の偉いさんと何やら言い合いをしているときだった。普段なら気づかないほどの小さな音。しかし、胸騒ぎがしたボクは、シュンギクを探す。しかし、名前を呼びながら部屋中を探しても、その姿がない。もしやと思い、ベッドの下をのぞくと、体を床にへばりつかせたシュンギクの姿があった。何かおかしい、何かが。お腹を床につけて寝るそのスタイルは、ときどきやるポーズだった。でも、いつもと何かが違う。そう口を開けて呼吸をしていたのだ。手を伸ばし、シュンギクの前足に触る。濡れていた。間違いない、何か異変が起っていると確信したボクは、すぐにベッドをどける。シュンギクは失禁していた。大も小も。それを恥ずかしがるように、どかしたベッドの下へと移動しようとする。でも、足が立たない。ワニのように体をすらせながらしか前に進めなかった。シュンギクは、通常、トイレ以外のところでは絶対に用を足さない。それどころかトイレが汚れているだけでも我慢する。何度も何度も掃除をしろと呼びに来る。潔癖性なのだ。そんなシュンギクが失禁してしまったのは、数えるほどしかない。そしてそのどれもが、体になんらかの問題を抱えているときだった。前に倒れたあの日もそうだった。そして、2週間ほど前に、出張のため預けたペットホテルからの帰り道。タクシーに乗る僕の膝の上でもしてしまった。思えば、あのときから、シュンギクの調子はよくなかった。それでもシュンギクが偉いのは、ボクがいないときにはけっして倒れないことだった。最初に倒れたときもそう。2週間前もそう。そして今日も。それだけが、ボクにとっては救いだった。慌てて受話器をとると、動物救急病院へ電話する。タクシーでいけば10分とかからないのだけど、前回同様、時間が立つのが遅い。タクシーの運転手は道順の指示を出す度に、「りょうーかいでーす」と答える。その心のない相づちがボクをいらつかせた。唯一の救いは、前回とは違ってシュンギクがボクの体にツメを立ていることだった。最初に倒れたあの日には、ツメを立てる気力すらなかったのだから。
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