昨年、ベルリンを旅したときも、ご多分に漏れず(いや本当に漏らしてはいない)パンツが足りなくなった。
ベルリンの街というのは奇妙なもので、男もののパンツが売っていない。半日探しても見つからず、翌日、ベルリン在住の友人と探すもなかなか見つからなかった。どうやらベルリンの男はパンツを履かないらしいのだ!(嘘だ)。
やっとのことでパンツを見つけたのは、あるデットストックショップだった。東ドイツのワークシャツなどを扱っている専門店。そのショーケースには1950〜1960年代製のデットストックパンツ(しつこいが下着だ)がたくさん並んでいた。
「下着を探している」と友人に通訳してもらい店主に伝える。友人は薄笑い。店主はイケメンで、どうやら女性である友人はイケメンとパンツの話ができることを喜んでいるようだった。
何枚かデッドストックパンツを見せてもらったが、そのどれもが腹部のゴムがゆるく、ボクにはややハードルの高いものだった。それでも一つを選び、続けて他にはないかと尋ねる。まさか買うと思ってなかったのか、イケメン店主は薄笑いを浮かべた。客観的に見ればそうだろう。ゆるゆるなんだから(ゆるゆるなのは腹部だが、お腹の状態がゆるいわけではない)。
しかし、そんなパンツでもボクには買わねばならないやんごとなき理由があるのだ。2日前から、パンツをリフレッシュしていなかった。
店主はあまりに気の毒に思ったのかもしれない。彼は奥の棚から古風な絵が描かれた箱を取り出し、ボクに手渡した。中にはこれまでに見たのとは別のパンツが入っていた。「これもデットストック?」。件の友人に通訳を頼む。店主は「これは昔の形を復刻して作っている現代のものだよ」。
あるならはじめからそれを出してもらいたかった。
そのパンツはボクには少々高かったけれど、もう買うしかなかった。ボクは箱入りのものと、最初に買うと決めたデッドストックの二つを買うことにした。箱が可愛かったし、本当は箱のを2つと言いたかったけれど、ヴィンテージキングを地でいくボクには、その決断ができなかった。
ホテルの部屋に戻って履き替えると、妻は小学生のようだと大笑いした。それはボクにはあまり似合っていなかった。少し股がキツく、サンスペルのトランクスに慣れているボクには、ちょっとした違和感があった。なので帰国後は使用頻度は低く、ドイツのことを思い出しては、妻に隠れてときどき履いている(いや隠れる必要はないのだが)。
ブルータスのページをめくっているとき、ボクは思わず息をのんだ。自らの目を疑った。家に帰りパンツ棚を探る。間違いなかった。今日本屋で手にした『男と女の上質図鑑』にも載っているのだから、よほど愛用しているに違いない。
告白しよう、ボクと松浦弥太郎さんは同じパンツを履いている(念のために書くと共用はしてない)。