アイスクリームを作らないアイスクリーム専門店がある。
よく意味のわからない噂を聞きつけた。
しかも、その店は神出鬼没。
いつ、どこに出店するかも分からないという。
そんな、ゲリラ豪雨のようなアイスクリーム店が、
この土日、代官山に店を出していると聞き、行ってきた。
店があったのは、こんな人形が所狭しと並んだ骨董屋の店内だった。
『ハリー アップ アイスクリーム(HURRY UP ICECREAM)』
女子ばかりで切り盛りする、かわいらしいアイス屋さんである。
先にも説明した通り、この店ではアイスは作らない。
「ははぁーん、アイス屋といいながら、実は、
アイスの形をしたお洒落グッズを売る店なんでしょ」
と思った方、鋭い。
鋭いが違う。
商品はまがいもなく、3種類のカップアイスだった。
注文をすると、カラフルなトッピングを加えながら、
雑貨のようにかわいらしいカップアイスを作り上げて行く。
注文してから仕上げて行くあたりは、いかにも専門店。
しかし、この店がよくある専門店と違うのは、
何と、肝心のアイスクリームだけは「出来合いのもの」を
買ってきて使うという、意味不明と言ってもいいような
思い切った強いこだわりを持っている点にある。
作り上げて行く感じも、極めてたどたどしい。
思わず「急いでよ」と言いかけて、ふと気づいた。
だから「ハリーアップ」なのか・・・(嘘)
アイスにのっけたパイナップルが落ちそうになるのを
必死に押さえ込もうと努力する店員。
しかし、その「素人っぽさ」をむき出しにしながら、
若さと笑顔で押し切って行くのが
ハリー アップ アイスクリームの真骨頂だ。
銀座のクラブよりもキャバクラ、キャバクラよりもガールズバー、
ハーゲ○ダッツよりもハリーアップ、というのが合い言葉である(嘘)
食べてみると、さすがに旨い。
いかにもレディボー○ンといったおなじみの味わいだ。
当面の悩みは物価上昇に伴う仕入れ値の上昇だと話す店員。
スーパーでのアイスクリーム仕入れ値が上昇しているという。
アベノミクスの影響はこんなところにも出ているようだ。
しかし、店員は強い口調でこう言った。
「アイスだけは妥協できません。
このアイスを楽しみに来てくださる人たちのためにも」
その言葉には
「間違ってもアイスそのものは作らない」
という強いこだわりを感じたのだった。
ちなみに、ハリー アップ アイスクリームでは
アイス以外のものは、トッピングの焼き菓子から
カップのデザインまで、自らの手で精魂込めて作り上げている。
作っていないのは、アイスだけということは強調しておきたい。
アイスは作らないけれど、アイス以外は本気で作り込むアイス屋なのだ。
その微妙ながら強烈なズレを楽しめるかどうか。
そこが、大人の度量を試される部分と言えなくもない。いや言えない。
最後に、次回の出店予定はと訪ねると、
「下北に近い、下北じゃないところの商店街、たぶん」
という答えが帰ってきた。
その辺りにお住まいの方には、余談の許さない状況が続くだろう。
噂を聞いたら「急いで行け」である。